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「神秘」白石一文(毎日新聞社) [本]

いよいよ今年もあと1週間・・・。あっという間ですねぇ。
まだ年末の予定が確定していない我が家です。

今日のレビューはちょっとカタイ感じで書きます。

神秘

神秘

  • 作者: 白石 一文
  • 出版社/メーカー: 毎日新聞社
  • 発売日: 2014/04/26
  • メディア: 単行本





大手出版社の役員に若くして就任し、仕事においては順風満帆と思われた菊池。53歳の彼は持病のようになっていた血尿で旧知の医師のもとを訪れ、自分が末期の膵臓がんに冒されており、余命1年と告げられる。
7年前に医師の妻と離婚し、双子の娘も独立している菊池は突然思い出した20年以上前に電話で話したきりの山下やよいという女性を探すために神戸へ移り住む。
病を癒す不思議な力を持つというやよいを探し当てるために。

合理的、論理的思考で出版業界での生き馬の目を抜くような競争を30年以上生き抜いて来た菊池がなぜ突然、科学では説明できない、病を癒す女性を探すことに人生をシフトしたのか。
確かに彼は恵まれている。
これまでで十分な蓄えを持っているだろうし、扶養すべき家族もいない。その上、会社からは役員なのだから出社しなくてもよい、報酬は今まで通り支払う(手続もめんどくさいし、みたいな)という申し出を受け、経済的心配ゼロで余命1年を過ごすことができるのだ。

神戸での生活で、次第に「やよい」という存在に近づいていき、探し当てたやよいと暮らすようになる菊池。
最後は主要な登場人物が全て一線上に繋がるという離れ業。
さすがにそこまでする???とも思ったけど、それが不自然に感じられないのは、この作品が最初から最後までひたすら「生きることの神秘」「死ぬことの神秘」について考え続ける思考の経路を描いたものだからだと思う。

未だ世の中には科学では説明できない「神秘」が存在する。
それはわたしも否定しないし、こうして物語で描かれると素直に染み込んでくる。
ちょうどこの作品を読んでいた頃、わたしもエコー検査でとある臓器に小さい影が見えると言われ、ドキドキしたり、どんよりしたりして過ごしていたこともあって(いちおう、問題なさそうということになり一安心しました。引き続き経過観察ではあるけれど)どうしても自分の身にひきつけて考えてしまった。
でも、やっぱりわたしはそれほど「神秘」を信じることはできない。
それは起きる可能性は否定しないけど、自分には無関係だって思ってしまうのですよ。だって、我が家にはそんなことは起きなかったんだもの。

菊池が自分と同じ膵臓がんで命を落としたスティーブ・ジョブズについて想いを馳せたり、神戸の大震災や東日本大震災をからめてきたり、徹底的にリアルを追求する描写と、徹底的に心の動きを追い続ける哲学的描写が際立つ、白石さんらしい作品。

それにしても、ますますこれは好き嫌いが分かれるだろうなぁ・・・。




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