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「永い言い訳」西川美和(文藝春秋) [本]

シルバーウィークですね。5連休。我が家は特に予定もなく・・・。どこか近場の山には登ると思います。

永い言い訳

永い言い訳

  • 作者: 西川 美和
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2015/02/25
  • メディア: 単行本

先日の直木賞ノミネート作。少し前に記事にした「ナイルパーチの女子会」とライバルだったわけですね。どちらも落選でしたが、作品の出来は段違いだと思います。

「愛するべき日々に愛することを怠ったことの、代償は小さくない」 長年連れ添った妻・夏子を突然のバス事故で失った、人気作家の津村啓。 悲しさを“演じる”ことしかできなかった津村は、 同じ事故で母親を失った一家と出会い、はじめて夏子と向き合い始めるが…。 突然家族を失った者たちは、どのように人生を取り戻すのか。 人間の関係の幸福と不確かさを描いた感動の物語。(Amazon商品ページより)

主人公の津村啓の本名は衣笠幸夫。そう、鉄人衣笠と同じ響きを持つがゆえに、ちょっと屈折した子ども時代を送り、大学のときに知り合った美容師の夏子と結婚、夏子に養ってもらいながらようやく流行作家となった頃には、夏子との関係は冷えきっている・・・というありがちさ。

そう、幸夫は全然、夏子の死を悲しめない。他人事というか、第三者的に自分と自分のまわりで起きていることを眺めているという風。
そしてそんな幸夫の日常にズカズカと乗り込んで来た、夏子の親友で一緒に事故で亡くなったゆきの夫である大宮陽一。倒れそうなくらい斜に構えている幸夫と比べ、トラック運転手の陽一はひたすらまっすぐにゆきを失ったことを嘆き、悲しんでいる。ときには2人の子供たちの存在を忘れてしまうほどに。

子どもの存在に意義を見いだせなかったはずの幸夫は、トラックの運転手という特殊な勤務形態故に生活が成り立たなくなりかけていた大宮家に週に2回子守りに通うことに。

すっかり距離を置いて、感情をぶつけ合うこともなくなっていた夫婦だけの暮らしとちがい、子供たちは打ち解けてくると、大人の都合にはお構いなしに感情をぶつけてくる。でもそう見えて、大人の様子をよく観察していて、傷ついたり、ストレスをためていたりする。そんな子供たちとの関係のなかで、倒れそうなくらいナナメ目線だった幸夫に変化が起きる訳ですが・・・。

タイトルの「永い言い訳」そのもので、幸夫はとにかく屁理屈捏ね夫。
捏ねまくって、自分の本心がどこにあるか、どんなものなのかわからなくなっていたのでしょう。
だからこそ、夏子という大切な妻のことも大切だと思えなくなっていたし、彼女の死についても悲しむことができなかった。
でも、長い時間を過ごした大切だったはずの人との別れが悲しくないはずなんてないわけで、人それぞれ、別れを受け入れる過程も違えばかかる時間も違うのだからね。

すでに本木雅弘主演で映画化が決まっています。幸夫にイメージぴったり。西川監督、モッくんにあて書きで書いたんじゃないかしらと思うくらいです。

読んでいて少し面食らったのは、語り手がどんどん変わっていくこと。しかも一人称だったり三人称だったり。
そういうところもとても映画的。映画監督ならではの小説だなと感じました。
ちょっと好き嫌いが分かれるかも。
幸夫の奥さんの夏子の語りが、旅行に出かける直前まであって、なんだかそこに衝撃を受けました。
事故で亡くなってしまうって、こういうことなんだなと理屈抜きで感じられる構成。だって、事故以降は、当然ながら夏子の語りはゼロになるわけで、物語の構成からも喪失感が自然と感じられるというね。意図しているのかしていないのかはわかりませんが、とても印象的でした。



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