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「長いお別れ」中島京子(文芸春秋) [本]

「長いお別れ」といえばレイモンド・チャンドラー(読んだことないけど)ですが、ハードボイルドとは縁がなさそうな中島さんの作品です。


長いお別れ

長いお別れ

  • 作者: 中島 京子
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2015/05/27
  • メディア: 単行本

認知症を発症した元中学校校長の東昇平。
彼が亡くなるまでの約10年を、妻の曜子や三人の娘たちからの視点で、あまり深刻にならず、でも味わい深く描いた作品。深刻な話なのに、どことなくおかしみが感じられるのは、中島さんならではだなぁと感心しながら読みました。

認知症という病気は長い時間をかけて、その人とお別れしていく病気なのだという文章が、本文中にもありますが、それは本人にとってもまわりの人にとっても、ですよね。
映画「アリスのままで」のアリスも自分が自分でなくなっていく感覚に打ちのめされていたけれど。
その人のからだは目の前にあるのに、なかみは違う人になってしまうんだもんねぇ。
軽い認知症になりかけていた父方の祖父が「俺はバカになっていっている」と寂しそうにもらしていたのが忘れられません。自覚がある期間が辛いんだよね。。。
祖父は進行する前に脳梗塞で亡くなってしまったので、子供達や孫たちのことがわからなくなるということはありませんでしたが、母方の祖母は長生きしただけに完全にいろんなこと忘れちゃってましたねぇ・・・。

献身的に介護する妻の曜子さんの胸の内。

 夫がわたしのことを忘れるですって?
 ええ。ええ、忘れてますとも。わたしが誰だかなんてまっさきに忘れてしまいましたよ。
 (略)
 それでも夫は妻が近くにいないと不安そうに探す。不愉快なことがあれば、目で訴えてくる。何が変わってしまったというのだろう。言葉は失われた。記憶も。知性の大部分も。けれど、長い結婚生活の中で二人の間に常に、あるときは強く、あるときはさほど強くもなかったかもしれないけれども、たしかに存在した何かと同じものでもって、夫は妻とコミュニケーションを保っているのだ。(246ページより)

別人、じゃないんだよね。どこかに、その人は残っている。
ああ、切ないなぁ。いちにちも早く、認知症に効く薬が発明されることを祈ります。

それにしても曜子さんの明るさ、前向きさを見ているとそれはつまり「強さ」なんだなと思うのです。これで曜子さんがへこたれてしまったら救いようがないよねぇ。
中学生くらいの頃に「恍惚の人」を読んで、愕然とした記憶がありますが、この小説を読んで思ったのは、世の中も進化しているんだなぁということ。認知症という病気についてもずいぶんわかっていきてるし、認知症を介護するということについても進化しているし、公的サポートも増えているし。「恍惚の人」の、嫁がんばれよ、みたいな世界とは随分違いますよね。
(それにしてもなんで中学の時に「恍惚の人」読んだんだろうか?)


恍惚の人 (新潮文庫)

恍惚の人 (新潮文庫)

  • 作者: 有吉 佐和子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1972/05/27
  • メディア: 文庫



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コメント 3

YAP

父方の祖母が、亡くなる前の数年間、認知症でした。
帰省して見舞いに行くたびに、私のことがわからなくなっていくのはつらく切なかったです。
by YAP (2016-01-22 08:22) 

yuki

カオリさま
私も中学生くらいの頃、「恍惚の人」を読みました。
家にあったからだと思いますが、つい最近
そういえばあの本、今読むとどう思うかな?と
考えていたのです。
ちょっと読み直してみようかなと思います。
合わせて「長いお別れ」も(^^)

by yuki (2016-01-22 08:53) 

カオリ

>YAPさま
たまにしか会えないと進行してるのがはっきりわかるので、またつらいですよね・・・うちの祖母もそうでした。

>yukiさま
わたしも「恍惚の人」はたぶん手近にあったから読んだんだと思います。確かに、今どう感じるかな?とは思いますね。
一緒に読むと認知症についてどんなふうに世の中の認識が変わったのかがわかって、そういう意味でも興味深いかもしれませんね。
by カオリ (2016-01-22 20:05) 

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